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ミュオン原子の分光によるパリティ非保存効果の観測に向けた動的過程の研究

by Sohtaro Kanda (KEK)

Asia/Tokyo
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Description

Joint Seminar of the 39th Nuclear Spectroscopy Lab. & Quantum Beam Application Research (B03)

第39回 核分光研&新学術領域研究「量子ビーム応用」合同セミナー

・Lecturer: 神田聡太郎 (KEK)

・Title: ミュオン原子の分光によるパリティ非保存効果の観測に向けた動的過程の研究 (Study of dynamical processes of muonic atom toward observation of parity nonconservation effects)

・Language: Japanese

・Date: Nov. 11 (Fri.), 2022, 11:00 -

・Place: RIBF 2F Large Meeting room + Zoom (the URL will be distributed on demand)

・Abstract: ミュオンは電子の200倍の質量を持つ荷電レプトンであり、物質中で原子核と束縛してミュオン原子を構成する。原子形成直後のミュオンは主量子数14以上の高励起状態にあるが、放射遷移、 Auger遷移、Coulomb脱励起などが連鎖的に生じて短時間のうちに基底状態に至る(カスケード脱励起)。ミュオン原子のBohr半径は通常原子と比較して1/200 程度と小さく、原子を構成するミュオンは原子核との相互作用に対してきわめて高感度な探針となる。ミュオン原子のX線分光によって、ミュオンと原子核との間に働く弱い相互作用による状態の混合を観測することが可能となる。これにより、標準模型における電弱相互作用の混合角であるWeinberg角を実験的に決定することができる。Weinberg角はエネルギースケールに依存し、高エネルギーの衝突型加速器実験によってTeVスケール、深非弾性散乱実験やニュートリノ散乱実験によってGeV スケールの値が得られている。MeVスケールでは原子におけるパリティの破れ(Atomic Parity Violation; APV) がもっとも有力な指標であり、これは電子と原子核との間の弱い相互作用による状態の混合を観測している。セシウム原子を用いた結果は標準模型における予言値と1.5 σ乖離しており、独立かつ高精度な実験が標準模型の検証を行う上で重要である。ミュオン原子におけるAPV効果を利用したWeinberg角の測定は1980年代から提案されていたが 、信号となる遷移の分岐比が小さく実験には多くの困難が伴うことが知られている。1990年代にPaul Scherrer Institute (PSI)でサイクトロトン・トラップを用いたいくつかの実験が行われたが、パリティを破る2Sから1Sへの一光子遷移は観測されなかった。J-PARC MLF MUSEにおいて実現した高強度のパルス負ミュオンビームを用いれば、先行実験が直面した諸問題を解決してAPVを観測できる可能性がある。実験を成立させるためには、カスケード脱励起の諸過程に加えて負ミュオンの減速および捕獲、Coulomb爆発を理解することが重要である。しかしながら、これらの動的素過程には未だ明らかになっていない部分が多く残されており、かつそれ自身が興味深い研究対象である。そこで、小型のカロリメーターを内装した気体標的セルをミュオンスピン分光器中に設置し、APV探索の予備測定を行った。ここでは、実験の概要、テスト実験の結果と今後の計画について紹介する。

・Host laboratory: Nuclear spectroscopy laboratory