Monthly Colloquium

Monthly Colloquium:冷反水素研究の最近の展開

by Dr 泰規 山崎 (基幹研究所 山崎原子物理研究室)

Asia/Tokyo
仁科ホール

仁科ホール

Description
反水素は水素の相方で、最も簡単な反物質である。反水素は真空中では安定であり、条件さえ整えば長い時間にわたって観測することができる。従って、原理的に高精度測定が可能で、反水素の分光学的特性を水素原子と詳細に比較することで、最も基本的な対称性、CPT対称性、の厳密なテスト実験を実現することができる。低エネルギー極限からの基礎物理学へのアプローチで、自然の囁きを聞く研究と呼ばれている。 最近、冷反水素に関わる研究は二つの大きな進展を遂げた。一つは反水素原子の八重極コイルとミラーコイルからなる磁気瓶への捕捉である。磁場差0.7Tの磁気瓶は(反)水素に対して0.5K程度の井戸深さしかなく、“極低温”の反水素が合成されたことになる。もう一つは、アンチヘルムホルツコイルを用いたカスプトラップによる反水素合成の成功である。カスプトラップは軸対称な磁場構造を持っており、反陽子や陽電子などの荷電粒子を安定に捕捉・操作・混合することができるとともに、合成された反水素のうち、Low Field Seeking状態にある反水素を軸に沿って集束して引き出すことができる。すなわち、スピン偏極した反水素を磁場のない領域へ効率的に引き出し、高分解能分光を実現することが初めて可能になった。これらの成功は、長い間懸案であった100keVまでの再減速装置(ELENA: Extra Low Energy Antiproton ring)の建設をCERNの評議会が認める契機の一つにもなった。 さらに、反物質(反水素)と物質(地球)の間に働く重力相互作用を直接測定しようと言う実験が開始され、また、新たな提案もだされた。極最近、ペニングトラップ中の単一陽子のスピンフリップが測定可能になった。全く同じ手法により反陽子の磁気モーメントも測定でき、CPT対称性テストには新たな切り口が加わった。 このように、冷反水素/反陽子による反物質研究はいよいよ基礎物理学の研究をする段階に入り、テーマもにぎやかになってきた。本講演では最近の進展、近未来の計画について簡単に紹介する。